マスターブレンダー サンディ・ヒスロップが語る 日本酒カスクから始まった、前人未踏の挑戦
銘酒「満寿泉」で知られる富山の桝田酒造店で醸される、芳しい日本酒の香味を纏った日本酒カスク。シーバスリーガルのブレンドに使われるモルトウイスキー原酒を12年から18年以上熟成させた後、日本の富山で約10ヶ月の日本酒の熟成に使われたこの樽は、再びスコットランドを目指して海を渡った。 日本とスコットランドの距離は約9000キロ。往復ともなれば地球半周分にもなる道のりだ。 樽を運ぶコンテナ内が大きな温度や湿度の変化に晒されるなど、樽の輸送にはリスクが付きまとう。しかも今回のプロジェクトでは、いかに日本酒の風味がフレッシュな状態で残っているかが勝負となる。 そこでサンディたちのチームは、桝田酒造店の人々や日本チームのメンバーたちの協力のもと、日本酒の熟成を終えた樽をできる限り速やかに完璧な状態で密閉し、スコットランドへと渡る船へと乗せた。樽の輸送には最善を尽くしたが、「実際に日本酒カスクがスコットランドに着くまでは、大きな不安があった」とサンディは話す。
目次
- 日本酒カスクのために開発された、特別なブレンドのシーバスリーガル
- 約1年のフィニッシュを経て、ようやく得られた理想のフレーバー
- ブレンディングの先駆者として、スコッチウイスキー業界の常識に挑戦する
日本酒カスクのために開発された、特別なブレンドのシーバスリーガル
地球半周分の過酷な旅を無事に終えた日本酒カスク。その特徴を最大限に活かすため、ビスポークに設計された特別なブレンド。
「日本からスコットランドに樽が到着すると、私とチームのメンバーは樽の内部に残る香りを嗅ぐなど、すべての樽の状態をくまなくチェックしました。幸運にもすべての樽がフレッシュで良い状態に保たれており、とても安心したことを覚えています」
そうして無事にスコットランドへと辿り着いた日本酒カスクに詰められたのが、12年以上の熟成を経た数々のモルトウイスキー原酒とグレーンウイスキー原酒を使い、サンディが特別にブレンドしたシーバスリーガルだ。
「シーバスリーガルには果樹園を思わせるフルーティな香りや味わいがありますが、今回のブレンドではそうしたベースとなる香味や優れたバランスはそのままに、甘い花のようなフローラルさを加えています。この特別なブレンドは、日本酒カスクによってもたらされる繊細でクリーミーなフレーバーとシーバスリーガルが最大限に調和するように、まさに一から考え抜いたビスポークなものでした」
顧客の体型や好みなどに合わせ、職人が一から作り上げる究極のオーダーメイド品と同様に、日本酒カスクの特徴に合わせて生み出された特別なブレンドのシーバスリーガル。
「日本酒カスクが日本からスコットランドへと着く頃には、私たちは特別にブレンドしたウイスキー原酒の準備をすでに終えていました。そして原酒の樽詰めを行うチームには、樽が倉庫に到着したらすぐにウイスキー原酒を詰めるよう指示していたのです」
樽の状態の把握から日本酒カスク用の特別なブレンド、さらには樽に原酒を詰めるタイミングまで、できる限り緻密な計算のもとサンディらのチームはプロジェクトを進めた。しかし、前例のない挑戦は我慢と探究の連続であり、常に困難やリスクと背中合わせでもあった。
約1年のフィニッシュを経て、ようやく得られた理想のフレーバー
数々の困難を乗り越えてたどり着いた理想のフレーバー。その裏にはスコットランドと日本の匠たちの、酒づくりの技と情熱があった。
「私には、日本酒カスクがシーバスリーガルに素晴らしい香りや味わいをもたらしてくれるという確信がありました。しかし、実際にウイスキーを日本酒カスクに詰めて、しばらくの間は思うような香味が得られなかったのです」
サンディたちのブレンディングチームは、4週間おきに日本酒カスクから原酒のサンプルを採取し、その香りや味わいのチェックを繰り返した。6ヶ月が経っても原酒に大きな変化が見られなかった時には、「このプロジェクトが失敗に終わるのではないかとすら思いました」と、サンディは回想する。
しかし、そこからも我慢強く原酒を見守りチームで作業を続けた結果、12ヶ月を過ぎた頃には遂に、原酒に素晴らしい変化が見られた。
ジューシーな梨やライチのような繊細な甘さや、なめらかでクリーミーなテクスチャなど、そこで感じられたのは、私が日本酒カスクでのフィニッシュに求めていた理想的なフレーバー。シーバスリーガルらしい芳醇なフルーティさとの調和も完璧なものでした」
「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」では、特別にブレンドしたシーバスリーガルの一部を日本酒カスクに詰め、12ヶ月から15ヶ月のフィニッシュを行う。フィニッシュの期間がまちまちなのは、それぞれの原酒の仕上がり具合を樽単位で見極めるから。フィニッシュをかけた後の原酒は、日本酒カスクでのフィニッシュを行わない原酒と再度ブレンドされ、ブレンディングチームによる細かな香りや味わいの調整やチェックを経て、ようやく製品としてボトリングされる。
「その製造プロセスは非常に複雑で、樽の中のウイスキーを常に注意深く見守る必要がありました。職人技を必要とするオーダーメイドな工程の一つひとつに、日本の桝田さんや私たちのチームのメンバー全員が、真摯に向き合ったからこそ完成させることができた製品。そのどれかが少し欠けるだけでも、このプロジェクトは上手くいかなかったのではないかと思います」
通常の製品に比べて幾重にも手間がかけられた「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」。サンディがそう話す通り、それはまさに日本とスコットランドの匠たちの手によって実現したウイスキーだ。
ブレンディングの先駆者として、スコッチウイスキー業界の常識に挑戦する
スコッチウイスキーの常識を覆した日本酒カスク。大きなリスクを取りながらも、なぜシーバスリーガルは果敢な挑戦を続けるのか?
確固たる伝統を持つスコッチのブレンデッドウイスキーを代表するブランドでありながら、常に挑戦を続けてきた。そんなシーバスリーガルでは、いまも実験的な数々のプロジェクトを進行させており、現在その数は数十を数える。
そのうち新たな製品として結実するプロジェクトは多くない。今回の「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」にしても、「いくらコストと時間をかけたからといって、シーバスリーガルとして満足のいく品質に達しないと私が判断していれば、決して製品化されることはなかったでしょう」と、サンディは言う。
ブランドの守護者であるサンディにとって、シーバスリーガルの伝統や変わらない品質を守り続けることは重要な役割だ。一方でサンディは、「失敗やリスクを恐れることなく絶えず挑戦し続けることも、マスターブレンダーにとっては大切なこと」と、常々口にする。
実は「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」は、SWA(スコッチウイスキー協会)が定める規定ではスコッチウイスキーを名乗ることができない。
現在のところSWAは、一部の例外はあるものの原則的に、スコッチウイスキーの熟成に用いられた実績のある樽だけにしかスコッチウイスキーでの使用を認めていない。今回、スコッチウイスキー業界で前例のない日本酒カスクは使用を認められず、結果的に「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」は、英国の規定に従い香味に影響のない少量のホップ成分を加え、スピリットドリンクのカテゴリで製品化された。
ちなみに、日本の焼酎樽で熟成させたスコッチウイスキーがあることを考えれば、いずれ日本酒カスクの使用がSWAに認められる日も来るかもしれない。また、2021年に日本洋酒組合が定めたジャパニーズウイスキーの定義でなら、日本酒カスクの使用はOKだ。
「シーバスリーガルは伝統的なブランドであると同時に、常に革新の最前線に立つブランドでもあります。これまでも前例のない新たな試みにも果敢に挑戦してきましたし、時には既存のルールの枠組みを超えていくことで、飲み手の皆さんにより革新的な味わいのシーバスリーガルを届けることができるのです」と、サンディは語る。
スコッチウイスキーを名乗れないという大きなリスクを取りながら、果敢な挑戦の末に実現した「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」は、まさに同ブランドの革新性と卓越した技術を体現する新時代のウイスキー。繊細で優しく馥郁としたその香味の裏側には、挑戦し続けるシーバスリーガルのマインドと、時代を切り拓く者としての強い覚悟が秘められている。